2025.06.03
かんじる
「どんな仕事してはるの?」
いつもの地元理容店で散髪をして頂きながら店主に聞かれ
映像制作の仕事してると答えると
「音響できますか?」と続けて聞かれ
うーㇺ、経験あるけど30年ほど前に現場離れてるしー
事情を説明すると「今度、ゴスペル見に来てください」と…
かんじるところはこの理容店の会話から始まります
ある介護施設のホールで、地域のゴスペルを楽しむ仲間の
ミニコンサートが開催される。
聞けば、先程の理容師さんが中心になって二カ月に一度ほど
市内の老人ホームやデイサービス等の介護施設を巡回しながら、開催しているとの事。
ある休日、最初は地域のコーラスクラブ発表の場くらいの事だろうと思い立ち寄ると、
歌い手にはゴスペル講師のプロも数名入りリハーサルがはじまる。、
音響や照明は普段我々も身近に利用するプロ機器。
出演者と裏方、総勢20名を超えるスタッフ全てがボランティアであった。
見学のつもりが周りの雰囲気に圧倒されて、気が付けば自分も音響卓の前に
座っていた。SHURE58マイク8本にラムサのワイヤレスマイク2本、
ノイズやハウリングはないか?オケ音量は適正か?リバーブは適量か?
自分が現役のころよりはるかにデジタル化が進み、マトリクスを見る事はあっても
触る事が無い周辺機器に戸惑いながら
「ふるさと」などの唱歌や、「愛燦燦」、近頃の「糸」をはじめセットリストは進行する。
30年前に現場を離れ、身体で覚えた感覚は鈍っているものの、心地よい緊張の中で
アンコールを終える事ができた。
ほっと一息していると、聴衆後列の年配のご婦人が近くにこられ
「懐かしく聞かせてもらい元気を頂いた、本当にありがとう」と両手で握手を求められた。
させて頂くことで、逆に自分の心が満たされる。長く親元を離れ孝行できずにいる自分が、
少しだけ罪滅ぼしをした気分になった。
その後、2年ほどかけて数か所の介護施設を巡回したが
コロナ禍以降休止、再開できず今に至る。
介護施設のゴスペルコンサートはできなくなったが、年に1~2度、屋内外での
地域まつりを同じボランティアメンバーがお手伝いをする。
生業ではジムのインストラクターや大学の講師、リフォーム会社の社長や
仕事を抱える主婦、老いも若きも皆それぞれ多忙な立場で、
夜明け前から舞台創りに汗をかき、日が暮れての終演後は撤去作業まで。
コンサートも地域まつりも皆が手弁当で、人をそこまで動かす力は、どこからくるのか?
感受性が豊で
「他人に喜んで頂けることが、自分の喜び」とする心の有り様からくるのではないか
表現者である我々のビジネスにも大いに通ずる大切な感性かと思う。
今は、働く時間の問題やDXが喫緊の課題であることは重々承知している、
しかし人が育む感性は年を重ねても磨き甲斐があり、時間の制限を受けにくい。
仕事の中だけで、感性を育むことには限界がある。
割り切れないところに人の成長があるとすれば、普段の生活の中にも
感性を養う場は、いくつも存在していると思う。
k.ono