2026.08.21
センスを仕組みに変える会社
最近、SNS運用の新しいサービスについて相談を受け、考える機会がありました。
これまで私たちが多く手がけてきた映像制作は、十分な準備期間を設け、案件に応じたスタッフと機材をそろえ、演出、撮影、編集、CG、音響効果、MAなど、複数の工程と確認を重ねながら、一本の成果物を仕上げていく仕事です。
一方、SNS運用は少し性質が違います。大規模な制作体制で一本の完成度を追求するというより、フットワークの軽さを活かした少人数の体制で、企画から撮影、投稿までを機動的に進めていく。投稿後の反応を確認し、次の企画や構成に反映する。一回の完成度だけではなく、試し、振り返り、改善を繰り返すことが重要になります。
そのSNSサービスの展開を考える中で出てきたのが「SNSはSNSのセンスのある担当者が必要なのではないか」という話でした。
企画を考えるセンス。画をつくるセンス。言葉を選ぶセンス。SNSに特化したセンス。
確かに、そうした力は必要です。
ただ、そもそも「センス」とは何なのでしょうか。
クリエイティブの現場では、「あの人はセンスがある」「この案件では、あの人に任せればセンスがあるから大丈夫」という言葉をよく耳にします。
魔法の言葉「センス」。
しかし、その一言で片づけると、その人が何を見て、何を考え、なぜ判断したのか、結果、どうセンスが良いから成功したのかまったく見えてこない。
センスがあると言われる人は、周りから見れば何となく決めているようで、確実に多くのことを見て、判断をしています。
相手は何を求めているのか。誰に届けるのか。何を最初に見せるのか。どこに違和感があるのか。このまま進めると、次に何が起きるのか。
観察する力、違いに気づく力、理由を考える力、相手の立場を想像する力、複数の選択肢から判断する力。こうした力が重なったものをまとめて、私たちは「センス」と呼んでいるのかもしれません。
もちろん、すべてを分解できるとは思っていません。経験の中で身についた勘や、その人にしかない感性もあります。
ただ、「センスだから説明できない」で終わらせず、なぜその構成にしたのか、なぜその画角を選んだのか、どこに違和感を持ったのかを言葉にすることはできます。
そのために必要なのが、コミュニケーションです。
仕事が終わった後に「どうだった?」と聞き、「問題ありませんでした」で終わっていては、経験は残りません。
最初の想定から結果としてどうなったのか。何か違ったのか。今回、一番迷った判断は何か。なぜその方法を選んだのか。次回は何を変えるのか。
こうした問いを持って話すことで、本人も無意識に行っていた判断に気づきます。曖昧だった感覚に輪郭ができ、考え方の軸が言葉になります。
そして、言葉になった経験を、その場限りの会話で終わらせず、次の仕事に使える形で残していく。そこまでできて、初めてセンスの共有ができ、「仕組み」になります。
これはSNS運用だけの話ではありません。
映像制作であれば、企画意図や演出判断を残す。
営業であれば、顧客が何に反応し、なぜ受注や失注に至ったのかを残す。
Web制作やマーケティングであれば、何を目的に改善し結果がどう変わったのかを残す。
仕事の中にある判断を、会社の知識に変えていくという点では、すべて同じです。
ただし、仕組みをつくれば、誰もが同じように仕事ができるようになるとは思っていません。
周囲を見ない。相手の立場を考えない。分からないことを確認しない。指摘されても次に活かさない。そうした姿勢まで、仕組みが自動的に変えてくれるわけではありません。
仕組みは、仕事ができない人を、何もしなくても仕事ができる人に変える魔法ではありません。
一方で、何を見るべきか、どう考えるべきかが共有されていなければ、育つ人まで「センスがない」で片づけられてしまいます。教える側も、「見て覚えて」で終わってしまいます。
だからこそ、経験のある人が無意識に行っていることを言葉にし、学ぶ人が考えるための土台として残していく。そこで生まれた経験や判断が次の人へ引き継がれ、新しい世代が自分たちなりに更新していく。
それができれば、「組織としてのサイズビジョン」は、今よりも強くなれると思います。
担当者や世代が変わっても、仕事への姿勢や品質が途切れない。顧客への提案や制作の精度を高め、より良い成果を返し続ける。
それが、私の考える持続可能な会社です。
センスという言葉だけで片づけず、その中身を探る。
対話によって言葉にし、会社の知識として次へつなぐ。
私たちは、センスを仕組みに変える会社でありたいと思っています。
Joe